月とお父さん
立原えりかの童話塾機関誌 ヒースランド 4 掲載
寒い夜のこと。
お父さんは仕事を終えて、家への道をとぼとぼと歩いていました。
「疲れたな、お腹すいちゃったな。」
空には冷たい氷をちりばめたような星達とまんまるのお月様が光っていました。
「お父さん」
月はお父さに話しかけました。
「こんなに遅くちゃあ、家ではお母さんも子供達もみんな先に眠ってしまって、誰も待ってなんかいないよ。」
お父さんは少しムッとして言いました。
「そんなことは無いさ。お母さんが僕の大好きなおでんをいっぱい煮て、お酒も用意して待っていてくれるんだから。」
お父さんにはだんだん月が大好きなチーズに見えてきました。
「ちょっとブランデーが飲みたくなったんだけれど、おつまみに君を少しちぎって分けてくれないかい。」
月はちぎられては大変と、少しだけあわてながら言いました。
「ふん、君に僕がちぎれるものか。さあ、出来るものならちぎってみたまえ。」
お父さんは追いかけました。月はあわてて逃げました。とても追いつけません。
お父さんは諦めて、立ち止って腕を組み、「うーん」とうなって考えこみました。
(でも実は諦めたふりをしていたのです。)
「うーん、どうしたらいいんだ、うーん。」
「ふん、ばかなお父さんだなあ。僕に追いつくことが出来たのは、今僕の上でおもちをついている足の早いうさぎ一羽だけなんだから。」
月は安心して、お父さんの頭の真上でぽっかりと浮かび、一休みしました。
その時です。突然、「うおー」と叫んでお父さんは飛び上がりました。その高いことといったら、とても今年37才のおじさんとは思えません。
「や、やられたあ。」
月はくやしそうに地団駄をふみました。
けれども足がないのでちょっぴり揺れただけでした。
それを見ていた星達は、我慢できずに大笑いを始めました。
「キラキラキラキラワッハッハ。」
「キラキラキラキラワッハッハ。」
星達は笑い転げて、いつもより激しくまたたき、キラキラと大さわぎです。
すると、笑いすぎた星の一つが星のかけらを落っこどしてしまいました。
星のかけらは、すうっと流れ星になってお父さんの目の前を落ちて行きます。
あわててお父さんは手をのばし星のかけらを受け止めました。
なぜって、とても透き通って冷たそうで、氷の代わりにブランデーに浮べたらおいしいだおうなあって、そう思ったからなんです。
こうして、お父さんは家に帰り、お母さんと二人で、チーズをおつまみにブランデーを飲みました。